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“長岡鉄男は永久に不滅です”

『長岡鉄男の外盤A級セレクション』小考



 オーディオ評論家の長岡鉄男(1926-2000)氏が亡くなられて、早いもので13年が過ぎましたが、死後もその人気は衰えず、この夏には『長岡鉄男の外盤A級セレクション1』(共同通信社)が復刊されました。
 今回は、『外盤A級セレクション1』と同著で紹介されているレコードについて、ご案内したいと思います。

 長岡氏は、『外盤A級セレクション1』の巻頭で自身が注目している5つのレーベルを挙げ、その特徴を簡単に解説しています。5つのレーベルとは、「Astree」(フランス)、「BIS」(スウェーデン)、「Everest」(アメリカ)、「Harmonia Mundi」(フランス/ドイツ)、「Nonesuch」(アメリカ)です。
 各レーベルの録音の特徴を述べた部分を引用してみましょう。

●Astree 「深み、厚み、艶が抜群、力感もあり特にアブラっこさはナンバーワン」
●BIS 「録音もA級、超A級目白押し」「録音はマイク2〜6本が標準で、(ジャケットのデザイン同様に)音色的にも仏Harmonia Mundiと似ている」
●Everest 「録音はまさに玉石混淆で、概して石が多いが、時々ルビーやダイヤが見つかる」
●Harmonia Mundi 「独Harmonia Mundi」は「音質としてはハードでシャープでクール、ハイ上がりのものが多い。一方、「仏Harmonia Mundi」は「厚み、豊かさ、艶が特長、概して少数マイクによる音場録音が多く、雰囲気がよく再現される」「切れ込み、エネルギー感が凄いというのも特長で、A級、超A級の優秀録音目白押しだ」
●Nonesuch 「古楽と現代音楽の中にはA級、超A級の優秀録音盤が多く(……)」

※「仏Harmonia Mundi」と「独Harmonia Mundi」に関しては、「まったく別のレーベルと考えたほうがよい」と付言しており、推薦盤の数やコメントから察するに、長岡氏は「仏Harmonia Mundi」により強い愛着を感じていたようです。

Astreeがナンバーワン!
 さて、ここで『外盤A級セレクション』の1〜3巻で紹介された300枚のレコードを、数字の面から見てみたいと思います。長岡氏が取り上げた300枚のなかで、もっとも推薦盤が多かったレーベルはどこでしょうか? 答えは「Astree」で、実に21枚に及びます。次に「仏Harmonia Mundi」と「Nonesuch」が同数で並び、17枚。第4位が、現代音楽を専門とするドイツのレーベル「Wergo」で15枚。そして第5位は「Erato」(フランス)と「Philips」(オランダ)が同数の12枚となっています。
 また、300枚のなかで10枚以上がセレクトされたレーベルは上記の6社に限られ、長岡氏が注目レーベルに挙げた「BIS」や「Everest」、メジャーレーベルである「EMI」(イギリス)、「Decca」(イギリス)、「Grammophon」(ドイツ)、そして優秀録音を売り物にしている「Telarc」(アメリカ)や「ECM」(ドイツ)などは、残念ながら10枚以下にとどまっています。
 仮に「Astree」「仏Harmonia Mundi」「Nonesuch」「Wergo」「Erato」「Philips」を、長岡氏の「6大レーベル」とすると、Philipsを除く5つのレーベルは、古楽もしくは現代音楽を守備範囲とする(『外盤A級セレクション1』が発刊された当時としては……)マイナー・レーベルと言えるでしょう。実際、氏は「外盤で一番面白いのはマイナー・レーベルだ」と公言しており、その理由として「マイク2本にデッキ1台というのが多い。実はこれが最大の魅力」と語っています。さらに「マイナーな曲をマイナーなアーティストが演奏したレコードで、録音が悪かったらだれひとり買おうとしない。だから録音には気を使う」と看破するあたりは、「さすが長鉄! 明快だ」と思わず膝を打ちたくなります。

まだまだある!?
A級、超A級の優秀録音盤

 ここで、一つ留意しておきたいのは、長岡氏は「演奏や音楽の好みではなく、あくまでも“録音”の良し悪しでレコードを選んでいる」といったことを再三述べているのですが、実際にはそうとも言えないのではないか……と思われる点です。
 例えば、推薦枚数トップの「Astree」には、ピアニストのパウル・バドゥラ=スコダのレコードが数多くあります。スコダは、ご存じの方も多いでしょうが、フリードリヒ・グルダ、イェルク・デームスとともに「ウィーン三羽烏」の一人として活躍した名手で、演奏も大変素晴らしいものばかりです。長岡氏がこうしたレコードを選んで聴いているところを見ると、実は、氏は「演奏の良し悪しを判断できる、優れた審美眼を持っていたのではないか?」とも思えてくるのですが、皆さんは、どのようにお感じでしょうか?

 過日、ベーレンプラッテの店主と話しているとき、店主がとても興味深い指摘をしました。長岡氏は『外盤A級セレクション1』で、盲目の鍵盤楽器奏者、ヘルムート・ヴァルヒャの「J.S.バッハ/平均律クラヴィーア曲集」のレコードを紹介しているのですが、その文中で「頭の中で音楽が鳴っていて、それを追いかけて指が動いているという印象を受けた」と書いています。この箇所を読んだ店主は「長岡氏は、ヴァルヒャは盲目であったことを知っていたのだろうか? 知っていたならそう書くだろうが、その記述はない。もし知らないで書いていたとしたら、長岡氏の耳あるいは感性は、大変なものではないか」と言うのです。
 長岡氏に直接、真相を確かめることができない今、我々自身が推察するしかありませんが、少なくとも、「長岡氏が残した発言、そして彼が推薦したレコードには、まだまだ組めども尽きぬ鉱脈が隠されている」と言えるのではないでしょうか。
 ちなみに「Astree」には、『外盤A級セレクション』に掲載された以外にもスコダのレコードがたくさんありますが、それらのレコードが氏の推薦盤と比べて「極端に音質が劣る」とは考えにくく、『外盤A級セレクション』の“周囲”には「隠れたA級、超A級の優秀録音盤」が眠っている、そんなことも言えそうな気がします。この点に関しては、長岡氏も「外盤選びは、いくらがんばったところでひとり人間のやることだから限界がある。おそらく筆者が見落としている名盤、珍盤が数多くあるのではないか」と謙虚に述べています。
 今後、『外盤A級セレクション』に比肩する優秀録音盤を発掘していく作業は、我々に託された課題なのかもしれません。そして末永く、すばらしいレコードとの出会いを心待ちにしながら、ミュージックライフを楽しんでいきたいものです。
 ベーレンプラッテのWebショッピングサイトでは、『外盤A級セレクション』で紹介されたレコードの「特集ページ」を設けています。
 皆さんも、ぜひ、優秀録音の宝庫「長鉄セレクション」をご試聴いただけましたら幸いです。(ベーレンプラッテ 藤田)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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